「車いすの宇宙物理学者」として知られるホーキング博士。ALS発症は20歳ごろと言われていますが、73歳の今も、車いすに取り付けられたタブレットPCを使って執筆や講演活動をされています。
重度のALS患者さんが使っているパソコン操作支援ソフトには オペレートナビやSwitchXSなどの市販製品がありますが、ホーキング博士が使用しているものはインテルとの共同開発によるカスタムメイドだそうです。
そして、このソフトウェアを必要とする全ての人に届けたいということで、先日オープンソース化され、フリーウェアとしても公開されました。
目次
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「Assistive Context-Aware Toolkit (ACAT)」
ホーキング博士のためにインテルがゼロから開発した、Windows操作および意思伝達支援ソフト。プログラム言語はC#で、動作には .NET Framework 4.5が必要です。
デモ動画はこちら。
ACATのプロジェクトリーダーでもある、インテルの Lama Nachman さんのスピーチの模様なので17分と長いですが、デモ部分を抜粋しながらソフトウェアの特徴を見てみたいと思います。
1スイッチ入力
キーボードやマウス、音声入力が困難な人でも、押しボタンなどのスイッチ入力デバイスを使ってWindowsアプリ操作が行えます。Webカメラを使った目や眉の動きで操作するジェスチャー入力もできます。
(動画 4:40あたり)
ホーキング博士が現在使用している入力デバイスは、眼鏡のテンプルに取り付けられた赤外線センサースイッチ。ほほのわずかな動きを検知して"スイッチが押された"ことをWindowsに伝えます。
なお特殊入力デバイスが手元にない人は、キーボードのF5キーだけ使って1スイッチ入力を試すことができます。
オートスキャン方式のオンスクリーンキーボード
(6:40~6:50あたり)
オンスクリーンキーボード上を黄色いスキャンカーソルが自動的に動くので、目的のキーが含まれているグループに来たらスイッチを押して選択。この操作を何度か繰り返してスキャン範囲を絞り込んでいき、目的のキーを選択します。
マウス・スキャン(The Mouse Scanner)
(6:40~7:50)
クリック、ダブルクリック、右クリックなどのマウス操作も、オンスクリーンキーボードを使ってスイッチ入力できます。メインの「アルファベット」キーボードの一番下、左から5番目のキーを選ぶと「マウス」キーボードが呼び出されます。
マウスカーソルの動かし方は2種類あります。
(6:50~7:10)
「レーダースキャン(Radar Scanning)」モードは、レーダーのようにマウスカーソルを中心に直線が回転。移動したい方角に来たらスイッチを押す。するとマウスカーソルが直線に沿って動くので、目的の位置に来たらスイッチを押して止めます。
デモでは、画面左下隅をクリックしてスタートメニューを開き、マウスカーソルを動かしてメモ帳アプリを選択しています。
(7:25~7:50)
「グリッドスキャン(Grid Scanning)」モードでは、画面の上から水平線が降りてきます。スイッチ入力で一旦止めると、マウスカーソルが水平線に沿って左右に動くので、目的の位置に来たらスイッチを押して止めます。
ファイル・ブラウザー(File Browser)など独自メニュー
(8:30~8:50)
Windows標準のエクスプローラも使えますが、1スイッチ入力だと非常にまどろっこしくなります。ACATには独自の「ファイル・ブラウザー」が用意されていて、「アルファベット」キーボードの右下にあるファイルアイコン・キーを選択すると、"マイドキュメント"フォルダのファイル一覧が表示されます。
(9:00あたり)
他にもアプリケーション・ランチャーや、デモにはないですが、アプリケーション切り替え、ウィンドウサイズ変更など独自メニューも用意されています。
コンテキストメニュー
(9:00~9:45)
「アルファベット」キーボードの右下にある菱型アイコンキーを選択すると、コンテキストメニューが開きます。
例えば、Internet Explorer が開いている時に菱型アイコンキーを選択すると、自動的に「IExplorer」コンテキストメニューが開き、ページスクロールや画面拡大などWebブラウジングが快適に行えます。
「Talk Window」「Lecture Manager」
デモでは紹介されていないのですが、ホーキング博士がよく使っていると思われるACAT独自のアプリです。
「Talk Window」は会話支援アプリで、テキストを入力した後 [enter]すると合成音声で読み上げます。コンテキストメニューから音量や文字の大きさを変更することもできます。
「Lecture Manager」は講演のときに便利なアプリ。あらかじめ用意したテキストやワード形式の原稿を読み上げるものです。視覚障がい者が使う音声読み上げソフトのように、読み上げ位置をスキップしたり、文や段落単位でいったん音声を止めたりすることもできます。
単語予測入力
ACAT開発時にホーキング博士が最もこだわったのが、"文字入力が速くできること"。
脳波や視線入力も試してみたがお気に召さず、従来のオートスキャン方式に SwiftKey組み込みが一番しっくりしたそうです。SwiftKeyとは、単語予測機能が優れた文字入力アプリです。
(12:50~13:30)
単語予測入力に関するデモ説明はないのですが、メモ帳に文字入力を行っているシーンがこちら。
単語の1文字目、2文字目と入力していって、「アルファベット」キーボードの左側のサジェスト候補欄に入力したい単語が表示されたら、数字キーで選択します。
単語の入力途中だけでなく、単語を入力した後も予測機能が働き、"of"や"and"の他に、例えば"black"の単語の後に"hole"がサジェスト候補欄に表示される場合もあり、大幅にスイッチ入力回数が減ります。
なお、フリーウェアとして公開されているACATには、ライセンスの事情なのかSwiftKeyでなく、Presageという文字入力アプリが組み込まれています。
派生ソフトウェアを期待
個々の機能は目新しくないですが、ホーキング博士のような書き物やスピーチが多い人が要望を出して開発されたソフトウェアなので、実際に使ってみるとかゆいところに手が届くものになっているかもしれません。
日本語入力の場合、漢字かな変換があって多少複雑ですが、どなたかが派生ソフトウェアを開発されることを期待したいと思います。
- Source:
- 「ホーキング博士が利用する音声ソフト」が無料で利用可能に | WIRED.jp
- Assistive Context-Aware Toolkit (ACAT) | 01.org
- intel/acat: Assistive Context-Aware Toolkit (ACAT) | GitHub
(Top photo courtesy of Pixabay)